STAP細胞と形式論理

数日前からニュースを騒がせている STAP細胞 のニュース。
独立行政法人理化学研究所の研究員が「万能細胞」と呼ばれる細胞を作り出す
新たな方法を発見しました。
研究成果をまとめた論文が、専門誌「Nature」に掲載されています。
その論文へのリンクは「こちら」です。

さて、思い出されるのは同じ万能細胞で有名な「iPS細胞」に便乗した
とんでも研究発表。
「ハーバード大学の客員研究員を務めた某氏(現:DJ iPS氏)がiPS細胞を使って世界初の心筋移植手術を実施した」
という話。
意味が違いますが、こちらでも、日本中が大騒ぎになりました。

STAP細胞の話の正しさは非常に信憑性が高いものですが、
iPS細胞を使った心筋移植手術の話は”結果的に”オオボラでした。
“結果的に”と表現しているのは、一時は本当に手術が行われたと信じられたからです。

嘘も真実も、同様に報道されるのか?
科学の発見に、嘘がまぎれる余地があるのか?

とりあえず思うところを幾つか触れてみたいと思います。

まず、押さえておきたいのは論文誌と学会のシステムです。

研究成果の発表は
・研究論文を掲載する専門誌
・シンポジウムなどを含む学会
などで行われます。
専門誌や学会ごとに、発表を許される基準があります。
その基準は全くバラバラです。

 A.ある専門誌では、投稿された論文の真偽を複数人の研究者が数年かけて確認し、正しいと確信できるものだけを掲載します。
 B.ある専門誌では、真偽を複数人の研究者が数週間で”できる範囲で”確認し、信憑性などのある程度の条件を満たせば掲載します。
 C.ある専門誌では、真偽を確認せずに、掲載します。

特に、C.の場合は間違っていても学術論文誌に掲載できるということが重要です。
ほとんどの雑誌はB.を採用しています。
十分に信頼できるA.を採用している論文誌は、少数派と言えるかも知れません。

学会発表は、もっとゆるいです。
多くの学会は、真偽に関する事前審査は行われません。
これは、
 「間違っている可能性がある内容だけど、
  多くの人に話をして、意見を収集し、
  研究を磨くため」
という意図もあります。

ですから、
 「この研究成果は学術論文誌に掲載されている」
とか
 「この研究成果は学会で発表されている」
などと報道されても、
 「専門家が正しいと思っているかどうかは別の話」
だったりします。

専門家から見ると「これは嘘っぽい」と思うことでも、
新聞とか大衆雑誌の記者から見たら「嘘か本当か判断できない」わけです。

冒頭で述べた、DJ iPS氏が行った嘘の学会発表は、
そもそもの学会発表のシステムを「悪用」し、
報道側がそれを見抜けなかった、
という話ではないかと感じます。

ふざけて
 「そろそろ、DJ iPS氏が STAP細胞を使って世界初の心筋移植手術を実施するかなぁ」
って言ったら、
妻に「不謹慎」と苦笑いされました。

さて、次に押さえたいのは
 そもそも研究成果が『正しい』とは何?
ということです。

 昔は「肉は健康に良くない。お米が良い」と言われていたのに
 今は「お米は体に良くない。肉が良い」と言われる。
というのも真実。
昔の技術や知見が、後になって覆ることがあるわけです。

その一方で、
 「数学で正しいと証明されたことが、
  あとになって間違いが見つかることはありえない」
というのも真実。
昔の発見が、後になって覆らないわけです。
例えば、
 「ある角度を1900年に調べたときには90度だったけど
  2014年に調べたら150度だった
  なんてことはあり得ない」
わけです。

この違いは「正しい」という言葉の意味に関わっています。
 「社会的に正しい」
 「統計的に正しい」
 「技術的に正しい」
 「形式論理的に正しい」
などは「正しい」の意味が違います。

「社会的に正しい」は、社会が変われば正しさが変わる。だから、後から覆る可能性がある。
「統計的に正しい」は、データ量や質が変われば正しさが変わる。だから、後から覆る可能性がある。
「技術的に正しい」は、技術に依存して正しさが変わる。だから、後から覆る可能性がある。
「形式論理的に正しい」は、形式によって正しさが変わるけど、形式を変えたら別の話だとみなされる。だから、後から覆らない。

ここで、形式の意味は
  「ある国では90度って呼んでいるものを、別の国では180度って呼ぶ習慣がある」
  「ユークリッド幾何ではまっすぐな線を直線と呼ぶけど、非ユークリッド幾何では曲がっていても直線と呼ぶことがある」
みたいな「言葉遣いの違い」であったり。
  「公理と呼ばれている論理の前提を、ある理論では導入し、ある理論では導入しない」
みたいな「公理の違い」であったり。
どちらにしても、何を仮定しているかがハッキリしていて、
論理の視点から見ると区別がつきます。

そんなこんなで長文になりましたが、
うちの次女の「お宮参り」が無事に済み、
ほっとしている萩原なのです。

写真 2014-01-25 11 51 27

写真はお宮参りに訪れた、うちの近所の神社。
その名も「子守神社」です。読み方は「こまもりじんじゃ」です。
お宮参りに良い名前でしょ。

追記:2014年3月12日
STAP細胞の論文に関して、取り下げの声が出ているようです。
Nature誌の査読システム(論文の真偽を判定するシステム)がしっかりとしていれば、
こんなことにはならなかったはずなのですが。


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